ラストボーイ






「芽衣!」



あたしを呼ぶ声がした。
それはどんどん近くに聞こえて、
息を切らしながらあたしを呼ぶ愁ちゃんの声が。





「・・・やっぱりいた。」





愁ちゃんは息を整えるかのように、
制服のネクタイを取りあたしにゆっくり近付く。



一歩一歩あたしから目を逸らす事なく。
あたしの目の前まで来て愁ちゃんは、しゃがんで一息ついた。





「芽衣ちゃん家出かな?」





愁ちゃんの顔も見れないあたし。





「もしもし?見つけた。今日遅いから俺が送るわ、わり。あぁ、じゃ、また明日。」





きっと電話の相手は勇志くん。
礼ちゃんも勇志くんも今の今まであたしを探してたの?






「芽衣、話は聞いた。何で俺に言わない?答えて」






間髪入れずに愁ちゃんがあたしに聞く。





「・・・迷惑かけたくなくて。心配・・・かけたくなくて」






「迷惑なんか誰も思ってないよ少なくとも俺らは」






愁ちゃんがあたしの手を取る。


制服の袖を少し捲ると赤くなった手首を優しく撫ででくれた。





「怖かったよな?ごめんな」






どうして愁ちゃんが謝るんだろう。
悪いのはあたしなのに、
謝らなきゃいけないのはあたしの方なのに。


溢れ出す涙が止まらない。






怖かった。すごく。


あんなの初めてだったから、
痛くてただ怖くて誰もいなかったらあたしは今頃どうなってたんだろう。






「俺も怖い?なぁ芽生、俺を見て」






流れてくる涙を反対の手で拭いながら、
あたしは愁ちゃんの顔を見た。





愁ちゃんはずるいんだ。
いつもいつも優しい顔をするから。



怒っていいのに怒らないから、
だからあたしはいつまでも愁ちゃんを頼っちゃうんだ。






「俺も怖い?」







あたしは首を横に振った。
泣きじゃくって話せなかった。







「言ったろ?芽生を守るって」






「っでもあたし・・・嘘・・・ついたんだよ?」





「気にしてねーよばーか。」






そう笑った愁ちゃんは、
あたしの頭をくしゃくしゃにした。






「あいつらも心配してた。芽生の事だから俺らに迷惑かけたくなかったんだろってあいつら分かってるよちゃんと。」







「・・・うっ、よ、よがっだ・・・」





「泣きすぎ。それより手だけ?」






「・・・なにがっ」






「あの、なんつったっけ?塚田?とかいう奴。他になんかされた?」







「んーん。掴まれただけ。」






「そか。なら良かった。まだ痛む?」







愁ちゃんが手首に触れる。
やっぱりまだ触ると痛い。



でも愁ちゃんが撫でるたび痛みが和らぐそんな気がした。






「ん。帰ろ。家まで送る」






あたしの荷物を軽々と肩にかけた愁ちゃんはいつもみたいに先を歩かない。





今日はいつにも増して優しい。
怒られるって思ったから余計に・・・ね。





「どんだけ泣いたの?笑」





口に手を当ててクスクス笑う愁ちゃん。






「わかんないっ・・・。愁ちゃんに初めて嘘付いたから。礼ちゃんにも。罪悪感しかなくて・・・」







言い終わる前にあたしは愁ちゃんの胸の中にいて、
少しツンとする香水の匂い。



愁ちゃんの匂いだあっ。






「よしよし芽生ちゃん何してほしいでちゅか?」






あたし赤ちゃんじゃないのに。



でもその時ばかりは愁ちゃんに甘えたくて安心したくてあたしは愁ちゃんの胸に顔を当てて言った。






「じゃあぎゅうってして」






安心したかった。



起きた事もこれからも、もう何もないって思えるように安心したかったから。







「ん。」







「ぶはっ」







愁ちゃんは強く強くあたしを包んでくれた。





力強くて、でも優しい。





もう大丈夫だよって言ってる気がしてあたしは安心した。






「は~いお~しまいっ帰んぞ~」







またいつもみたいに先を歩く愁ちゃん。

ほんっとに歩くの早いんだもん。






「しゅ、愁ちゃんっ待ってよぉ」





「早くしないと置いてくよ?」