瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は少し離れている所から、佐由良を見ていた。

雄朝津間(おあさづま)のやつ、何で佐由良と一緒にいるんだ。例え弟と言えども、佐由良と一緒にいるのはどうも気に食わない)

「瑞歯別、何かあったの?」

「いや、阿倍姫(あべのひめ)。何でもない」

瑞歯別皇子は引き続き、酒を飲む事にした。


その頃、佐由良は宴の裏手まで来ていた。

「私、何でこんな思いしないといけないの」

佐由良はその場にうずくまって泣き出してしまった。

「佐由良一体どうしたの!」

どつやら、佐由良を追って雄朝津間皇子がここまでやって来たようだ。

雄朝津間皇子はその場で泣いている彼女を見て驚いた。

「佐由良、やっぱりさっきから何か変だよ。何かあったの?」

佐由良はそう言われて、さらに涙が出て来た。

そんな彼女を見て雄朝津間皇子は言った。

「それって、瑞歯別の兄様が原因?」

皇子にそう指摘され、佐由良は言葉を失った。

「やっぱりそうか。佐由良がこんな状態なのにそれにも気付かず、追いかけても来ない……」

「雄朝津間皇子?」

「やっぱり大人になるまでは待てないか」

雄朝津間皇子はここに来て決心した。

「ちょっと兄上の所に行ってくる」

そう言って、雄朝津間皇子は急いで催しの場に走っていた。

(え、雄朝津間皇子は何を。
何か嫌な予感がする。とにかく後を追いかけないと)

佐由良も慌てて、皇子の後を追った。