翌日の朝、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)と佐由良が若宮に帰る為、物部伊莒弗(もののべのいこふつ)がその見送りに来ていた。

「伊莒弗、今回は本当に世話になった」

瑞歯別皇子は伊莒弗の家の前で彼に言った。

「いえいえ、こちらこそ対したおもてなしも出来ず、本当に申し訳ありません」


「そんな、昨日はあんな美味しい料理を頂けて嬉しかったです」

佐由良もとても満足そうに答えた。

「それは良かった」

伊莒弗もそれを聞いて安心した。


佐由良がそう言った横で、瑞歯別皇子が思わずあくびをした。

「皇子、寝不足ですか」

「いや、昨夜はちょっと色々考え事をしていて、中々寝れなかっただけだ」

(本当に、誰のせいだと思ってるんだ)
 
「まぁ、そうでしたの。私なんか疲れてすぐに寝れました」

佐由良は、瑞歯別皇子の寝不足の原因が余り理解出来ずにいた。

「それと今後、大和に行く時は佐由良の元にも訪れて良いでしょうか」

「あぁ、別にそれは構わない」

瑞歯別皇子は答えた。  

(これからは、お父様にも時々会えるのね)

それを聞いた佐由良もとても喜んだ。


それから伊莒弗が2人に言った。

「今回の件について、私と麻日売が出会い、そしてその巡り合わせで皇子と佐由良に今回会えた事は、きっと運命だったんだと思います」

「お父様……」

佐由良と瑞歯別皇子も、この不思議な巡り合わせがただの偶然とは到底思えない。


「では皇子、娘の事をくれぐれも宜しくお願いします」
 
そう言って伊莒弗は頭を深々と下げた。

それを聞いた佐由良は、嬉しさでまた涙が込み上げて来た。

「あぁ、分かっている」

瑞歯別皇子もそう答えた。

それから2人は馬に乗り、「ではお元気で!」と言って伊莒弗の元を後にした。


そんな2人を見送った伊莒弗は、ふと思った。

麻日売(あさひめ)、私はあなたと出会った事を後悔していない。
やはり、私達の出会いは運命だったんだ。
そして私達の娘が作った新たな巡り合わせによって、再び私達は繋がったのだから)