「つまり、この方は私のお父様」

佐由良はこの話しを聞いて凄い衝撃を受けた。まさか自分の父親の話しが出るとは思いもしなかった。

「母は生前、父親が誰かを言わずに亡くなったと聞いてます」

「恐らく、私の事を話したら私に迷惑が掛かると思ったんでしょうね」

(だから、お母様は頑なに父親が誰かを言わなかったのね)

「当時乙日根(おつひね)麻日売(あさひめ)をとても可愛がっていたと聞いてます。なので他の男が彼女の元に通う事も出来なかったはずです。なので父親は私以外に考えられません」

「え、お祖父様が、お母様を?」

「はい。その可愛がっていた娘を他の族の男に取られ、その上あなたを産んで亡くなったとなれば、彼のショックも相当大きかったと思います」

(だからお祖父様は、私を遠ざけてたの。その悲しみの余りに)

「それに、乙日根は私と麻日売が通じていた事に気付かれてた可能性があります。
私が麻日売と別れ、そのまま大和に戻ろうと馬を走らせていた際、乙日根に見られてしまいました。
私もまずいとは思いました。だがどうする事も出来ず、結局そのまま行ってしまいました。
その時私は、麻日売に別れを告げる為に他の連れとは別行動だったので」

「うん、待てよ。それならなぜ佐由良を大和に行かせたんだ。そんな事をしたら、伊莒弗と佐由良が今回のように出会ってしまう可能性があったはずだ」

瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)ふと不思議に思った。それではまるで、乙日根がそうなる事を予測して佐由良を大和に行かせた事になる。

(確かに皇子の言うとおりだわ)

「もしかすると、乙日根はわざとそうさせたのかも知れません。あなたと私を合わせる為に。これだけ麻日売に似ているのだ、ひと目会えば流石に私も声を掛けたはずですから」

「お祖父様が私の為に……」

「はい、私が思うに、乙日根はあなたを嫌っていた訳ではないと思います。ただ彼の悲しみが余りに大きかった」