瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)と佐由良を乗せた馬は勢い良く道を走っていく。

(やっぱり馬に乗るのは気持ちい〜)

佐由良は顔に当たる風をとても心地よく感じた。

「朝早くに出発したから、昼過ぎには目的地に着けると思う。途中に休憩も何度か入れる予定だ」

「思ってたよりも早く着くんですね。正直もっと掛かると思ってました」 

「まぁ、そんなに遠い訳ではないからな。俺も何度か行った事があるし」

(最初は2人だけで行くって言われたからちょっと心配はあったけど、何とかなりそうね)

「佐由良、もししんどかったら俺に持たれて構わないからな」

「あ、はい。今の所は大丈夫です。皇子は本当に力も体力もありますね」

自分なら1人で馬に乗るのが精一杯で、そんな余裕は全くないだろう。

とは言え、今の時点でも皇子はしっかりと佐由良を支えて馬を走らせている。
そこはやはり大の男性だなと彼女は思った。

「しかし、こうして2人で馬に乗るのは2週間ぶりだな」

瑞歯別皇子は佐由良の耳元で言った。恐らくこの間の娘の誘拐事件の事だろう。

(皇子に耳元で話されると、どうしても緊張してしまう)

「そ、そうですね」

佐由良は思わず俯いた。
彼女的にこう言った時にどう彼に言い返したら良いか分からず、困ってしまった。

すると瑞歯別皇子は佐由良に回してる腕に力を込めた。
こうすると異様に2人が密着してる事に意識が向く。

そして瑞歯別皇子は、少し意地悪そうに言った。

「何だ佐由良、お前緊張してるのか」

(皇子は2人になると何でこうなるの……)

「別に今更だろ。口付けまでした仲なんだから」

そう言って皇子は佐由良の首筋に唇を近づけた。同時に彼の息遣いの音も聞こえて来る。

「ちょ、ちょっと、皇子。お戯れは……」

佐由良は思わず、身体を反らせた。
だが皇子の力が強く、直ぐに引き戻される。

すると佐由良は体を強張らせ、その緊張が瑞歯別皇子にも伝わって来た。

それに気付いた皇子は、さっと佐由良から顔を離した。

「もう少し行った所で、一度休憩しよう」

「は、はい」

佐由良は皇子が、自分から離れた事にホッとした。

(皇子は一体何を考えてるの?)