佐由良は笑顔でそう言った。

(え、これ以上の幸せは望まない)

(佐由良、それ瑞歯別皇子(みずはやわのおうじ)の前で言っちゃって良いの?)

稚田彦(わかたひこ)伊久売(いくめ)は思わず固まった。
そして恐る恐る瑞歯別皇子を見た。

すると案の定、それまで嬉しそうにしていた瑞歯別皇子の顔つきが変わった。
どうやら酷くショックを受けているようだ。

だが佐由良は、後ろで瑞歯別皇子がショックを受けた事に全く気付いていない。

すると瑞歯別皇子は急に馬の手綱を少し引っ張った。
すると馬は驚いて、前足を大きく上げた。

「きゃー!!」

佐由良は思わず後ろの瑞歯別皇子に寄りかかった。
すると皇子は、佐由良の腰に回していた腕にぐっと力を入れて、自分に強く引き寄せた。

「佐由良、悪いちょっと手が滑ってしまった」

「いえ、私は大丈夫です」

(あーびっくりしたわ)

すると皇子は佐由良を引き寄せた状態で、「覚悟しておけよ」とかなり小さな声で佐由良に言った。

「え?皇子、今何か言いました」

「別に、何でもない」

(うん、一体何なんだったんだろう?) 


こうして4人は宮へと戻って行った。