そらから数日後、雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は自分の住んでいる宮へと帰って行った。

最初は嵐のようにやって来て、若宮の人達も慌ただしく動いていたが、雄朝津間皇子が帰ると何故かちょっと寂しい気分になる。

そして季節は冬を迎え、宮の人達や一般の農民達も、酷い寒さの中で生活を送るようになった。

そして年が変わり、佐由良も14歳になった。

だが冬の寒さは相変わらず続いている。

「吉備での冬も寒かったけど、大和の寒さはそれ以上ね」

それでも采女としての仕事はしっかりと務めなければならない。

「佐由良ちょっと来て!」

佐由良と同じ采女(うねめ)胡吐野(ことの)が彼女を呼んだ。

「胡吐野どうかしたの?」

佐由良は胡吐野に呼ばれて、いそいで彼女の元にやって来た。

瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が、寒さが酷いので熱いお酒が飲みたいそうなの。なのでちょっと持って行って来てくれる」

「え、私が行くの?」

「だって、他の娘に言ったら皆自分が行くって言い合いになるでしょう。私も今忙しくて行けないし。佐由良なら大丈夫かなと思って」

(確かに……それに以前と違って瑞歯別皇子が私を避ける事も無くなったみたい。
まぁ、お酒を持って行くぐらい一人でも大丈夫かな)

「分かったわ。急いで皇子の所にお酒を持って行ってくる」

「佐由良、本当に助かるわ!」

そうして佐由良をお酒を取りに行ってから、瑞歯別皇子の部屋へと向かった。