それを聞いた雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は佐由良を見て言った。

「でも、その相手が佐由良になるのは嫌だな」

皇子はポツリと佐由良に言った。

「え……」

思わぬ事を言われて、佐由良は驚ろく。

「佐由良は一緒にいて楽しいし、何か好きなんだよね僕」

(え、私が好き?)

この皇子は言っている事の意味を理解しているのだろうか。
それとも、単にお気に入りの人を取られたくないだけなのか。

雄朝津間皇子は不思議そうにしている佐由良を見ながら、無邪気に続けて言った。

「でも、瑞歯別(みずはわけ)の兄上に佐由良をちょうだいって言っても、今の感じだと駄目って言われそうだし……」

(それって私を自分の側に置きたいって事)

「皇子、それは私に側で仕えて貰いたいって事ですか?」

佐由良は皇子に問いた。

「あぁーそうじゃなくて......佐由良を僕の妃にしたいなと思って」

(え、私を妃に)

「君は命懸けで瑞歯別の兄上を守ってくれるぐらいとても勇敢だ。それにとても心の優しい人だと思う。
まぁ、純粋に一目惚れって事もあったんだけどね」

皇子は少し照れながら言った。

それを聞いた佐由良に動揺が走った。

「ただ僕もまだ子供だから、頑張って兄上に認めてもらえるよう、頑張るしかないかな」

「雄朝津間皇子……」

「とりあえずこの件は、僕がもっと大人になって自信がついたら、瑞歯別の兄上に申し立てしようと思う。
佐由良も、その時に決めてくれたら良いから」

佐由良は何て答えたら良いのか分からず、口から言葉が出てこない。

「はい、この話しはここまで!
一応、瑞歯別の兄上にはこの事は内緒だよ。じゃあ佐由良も仕事があるだろうから、ここで失礼するね」

そう言って雄朝津間皇子はスタスタと歩いて行った。

(皇子は本気なのかな……)

相手は自分よりも若いとはいえ、大和の皇子だ。佐由良にはどうすれば良いのか分からなかった。

(とりあえず、しばらくは様子を見るしかないわ。それに言われた通り瑞歯別皇子にも黙っておこう。
こんな事が瑞歯別皇子の耳に入ったら、何かと面倒な事になりそうだ)