「あず先輩。今日、飲みに行きませんか?」

いつものノリで誘ってくる彼。
お酒を交わしながら仕事の話しをして、くだらない世間話しをして……

「あず先輩、今って好きな人いますか?先輩は綺麗だから男のひとりくらいいますよね?」

突然の言葉にドキッとした。まさか告白?

「いないわよ」

必死の思いでそう告げた。

大人の余裕みせなきゃ。

敬介君を好きだなんて気付かれちゃいけないんだよ。

「俺、営業二課の唯衣(ユイ)ちゃんがいいなぁなんて思ってるんすよ。あの娘、彼氏いるのかな?」

『……えっ』

思いもよらない告白に心が焦った。

「あっ、片岡さんね。あの娘はどうなのかしら……」

半分、上の空で話しを聞きながら夜が明けた。

休み明け朝のラッシュアワー。
満員電車に揺られながら流れる景色を見つめると、あの時を思い出し溜め息ひとつ。


『敬介君てばどうして私なんかにあんな話し……』

まともに聞いてしまった自分を責める。

『会社にいけば敬介君と会えるからこの親父臭い電車の中も頑張れるのに……』


「あず先輩、おはようございます」

会社に向かう途中、後ろから声がする。

そう、その笑顔があるから私も笑っていられる。

決して言えない想い。
敬介(あなた)が見つめてくれるなら私、もう何もいらない。

そう淋しい日も、楽しい日も、いつもいつでも敬介君の傍で、敬介君の視線を感じていたいの。

気がついて……

気がつかないで……


貴方の視線がいつも欲しいから……

     =fin=