ぎり、と重い石の扉を押せば、骨に響くような鈍い音を立てる。

 内心、誰も来ないことを祈りながら外へと飛び出した。

 まず目に飛び込んできたのは中空に浮かぶ、見事な月。

 大きく伸びをして、湿り気を帯びた夜気を胸いっぱいに吸い込む。

 石造りの回廊に、周囲は目隠しの濃い木々。

 甘酸っぱい花の香りもどこからか漂う。

 人の気配もなく静まり返っているのは、この場所が司政宮よりも後宮に近い場所だからだろう。

 生活に近い場所ならば暁闇の刻は深い眠りに落ちているはず。

 夜明けまでの短い期限付きとは云えど、それはシェイスにも都合が好い。