目を醒ましたのは、薄暗い天幕のなかだった。

 身体が水で満たされた皮袋のように重く、指一本動かない。

 自分の意思で動く目だけで、『彼』は周囲を窺った。

「あ、気が付いた」

 天幕の隅、煮炊き用の泥を固めた竈の前にしゃがみ込んでいた少女が、甲高い声を上げる。

 一〇歳くらいだろうか。

 褐色の肌をした、見知らぬ子供だった。

「姫さまを呼んでくるね。ちょっと待ってて」

「待て……」

 あどけなく告げて、ぱたぱた走り去っていく。

 呼び止めようと身動ぎした隙に、皮膚が攣れるような鈍い痛みが右肩から走った。