「なにを、わたくしに求める?」

「以前、同じことを俺に訊ねましたね。

 そう……五年前です」

「お前は、己の答えを憶えているの?」

「ええ、はっきりとね」

 あの頃、丁度ウルジャスは一〇歳の誕生日を迎えようとしていた。

 年を重ねるにつれ、ウルジャスの耳も、兄と己に関する噂を拾うようになった。

 すなわち。

 王は生まれ卑しい兄王子を廃嫡にし、巫女が生んだ弟王子を王位に据えるつもり。

 だからこそ、生誕の祝いはこれまでになく豪奢なものを仕立てるのだ、と。

 いま思えば笑ってしまうような戯言だ。

 無関心な王は、兄でも弟でも、どちらが王位を継いだとてどうでも好かったに違いない。

 だが、当時のウルジャスは恐れた。

 だからこそ、馴染みのない、しかし女神の巫女であり神威を操る母に願ったのだ。

 ――兄を、王位に着けて欲しい、と。

 母がどんな方法を用いるかなど、なにひとつ考えはしなかった。