「シェイス・リン」

 ジャスパが、シェイスの名を呼ぶ。

 僅かに、焦りに似た響きを宿して。

 彼には珍しい真剣さに、ますます声が詰まる。

 シェイスは、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 指先ひとつ、動かせなかった。

 ジャスパの指が徐々に丸まり、握り込まれ、最後に引き戻される、その瞬間まで。

 そのときジャスパが浮かべていた表情を、俯いたシェイスは掴み取れなかった。

 褪せていく夢と一緒に、指先から擦り抜けていくのは、多分――それこそ、後悔に相応しい鈍さだったのかも知れなかった。