遊牧の民の暮らしは、地に根を張る城市人に左右される。

 戦で牧草地が焼ければ飢え、ゆえなき恨みを買えば迫害される。

 中原が荒れている現在の世ならば、尚のこと。

 災厄を避けるためには情報が要る。

 そこで、城市に潜む一族の者が必要になる。

 薬師サディマもまた、王宮の侍女アガサと同じく城市に溶け込んだ者のひとりだった。

 城市に顔を出す割合の多いシェイスは、一族を離れた彼女に懐き、いまでは姉のように慕っている。