「……痛い」

 もがくのではなく、

 抗うのでもなく、

 感情を置き忘れたような凍えた声をインシアが響かせる。

 夢から醒めたように、ゆっくりと、青年――ラザーの腕が解けていった。

「汗をかいている」

 抱きすくめられたかたちそのままに、両手をだらりと落としたまま。

 インシアがラザーを見る。

 ぼやけた、焦点の合わない灰色の視線。