インシアの動きが凍ったのは、一瞬。

 すぐに、細い指で部屋の隅を差す。

 見れば、薄い紗に分厚い帳を重ねた豪奢な寝台が据えられていた。

「あちらへ。帳を下ろせば気付かれはしまい」

「――恩に着る」

 寝台に飛び込み素早く帳の紐を引き解いたシェイスの耳に、インシアの囁きが届いた。

「いいえ。

 お前は、好い言葉をわたくしに届けてくれた。

 恩はわたくしの方にある」

 硬質な印象を裏切るあどけなさで、インシアが口許を緩めてみせた。

 唇の紅さが鮮やかに映える。

 意外だと目を瞠った次の瞬間、落ちた分厚い刺繍の帳にさっと、ひかりが遮られた。