溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



「キスしたい。してもいい?」


いいわけない。

必死で首を横に振ると、新城さんは首をかしげる。


「本当にダメか?」


今度は首が折れそうなくらい縦に振る。

頬が熱い。心臓が、痛い。


「こんなところじゃ……誰か、来ます」


店員さんだって、バカ息子や大西さんだって、いつ出てくるかわからないのに。

こんなところを他人に見られたら、恥ずかしくて生きていけない。


「……それって、誰かに見られる可能性がなければ、いいってこと?」

「えっ?」


新城さんに聞かれて、言葉につまる。

誰か来るかもしれないから、嫌だ。

ということは、誰かに見られる危険がなければ、再び唇を許してもいいと……そう私は思っているの?


「ずるいやつ。無意識なのに、可愛すぎる」


あごを支えていた指が離れたかと思うと、そのまま頬を包まれる。


「本当に嫌な場合だけ抵抗しろ」


いつもより低い声でそう囁くと、目の前で長いまつげが揺れた。

それに誘われるように、ぎゅっと目をつむってしまう。

咄嗟に息を止めると、私の唇に、新城さんの唇がそっと触れた。

どうしていいのかわからなくて硬直していると、頬を包んでいない方の左手が、そっと私の手をにぎった。