「一ノ瀬ちゃん!待ちくたびれたよ!」
出た……バカ息子。
脱力するくらいのとびきりの笑顔が、サングラスの下から現れた。
新城さんと大西さんは驚いたような顔をしている。
どうやら、マルタイの待ち人が私だとは知らなかったみたい。
「国分議員、これはどういうことですか」
新城さんが詰め寄るけれど。
「いやいや、時間がないんだよ。話はまた今度ね。さ、ドレスを選ぼう」
ちょっと待って。ドレス?話が全然見えない。
その場で立ちすくんで呆然としている私の腕をつかみ、国分議員は目の前のブランドショップへと足を踏み入れる。
げっ、こんな足元が絨毯でできてるお店、入ったことない。
「あの、どういうことですか?」
聞きなおすと、国分議員は笑顔で答える。
「王子様がシンデレラに魔法をかけてあげるよ」
──ぞくっ。
背中を冷たいものが走り抜けると同時、全身に鳥肌が走った。
誰が王子で誰がシンデレラだって?
この人、バカなだけじゃなくて、とってもイタイ人だったのね。
「帰らせていただきます」
くるりと踵を返すと、入り口で三田さんが両手を広げて通せんぼしていた。



