溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


そう言いかえしてやろうとしたのに、ドアの隙間に挟まったまま懇願する姿が哀れで、つい同情してしまった。


「では、熱が出て動けないと伝えてください」

「ご病気の場合は、病院にお連れしろと言われています。外出中の場合も、絶対に行先を突きとめろと。とにかくあなたがどこにいると証明できなければ、ダメなんです」


……その情熱、政治活動に向けろよ。

思わず舌打ちしそうになったけど、なんとかこらえた。


「仕方ないですね。お会いして、迷惑だからこういうことは今後一切やめてくれと直接言ってやります」

「助かります。よろしくお願いします」


三田さんが頭を下げると、薄くなった頭頂部がよく見えてしまった。

どんな物好きか知らないが、自分の秘書にこんな仕事までさせて……職権乱用だ。許せん。

ああいうお坊ちゃんは、きっと誰にも叱られたことがないんだ。一度ビシッと言ってやろう。

あなたの思い通りにならないことだって、世の中にはたくさんあるんですよ、と。

私は決意し、三田さんの用意したリムジンに乗り込んだ。