溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



「さ、遅いから気をつけて帰れ。送ってやれなくて悪いな」


頭の上から、新城さんの手が離れていく。

そのことを寂しいと思うなんて、以前の私からは考えられなかった。


「いえ……お疲れ様です」


やっとそれだけ言うと、帰路につこうと歩き出す。

すると、背中に声がかけられた。


「おい、紫苑」

「はい?」

「あのバカ息子には気をつけろよ。何を言われても相手にするな」


きょとんとする私に、新城さんは頭をかいて言った。


「どれだけニブイんだよ。お前、あのバカ息子に狙われてるぞ。つまり、男女の関係になりたいと思われてる。だから、セクハラされないように気をつけろってこと」

「まさか」


あのバカ息子がそんなことを?

信じられないけど、そういうことなら意味のわからなかった発言も納得がいく。


「……わかりました。一応覚えておきます」

「おう。触られそうになったら固まってないで、さっさと逃げろよ」


こくりとうなずくと、新城さんは軽く手を振り、エレベーターの方へと歩いていってしまった。

ボタンを押し、その中に消えていく新城さんの背中を見送る。

その間もずっと、胸は熱いままだった。