そうだ。
新城さんのことが本当に迷惑なら、投げ飛ばせばいい。セクハラで訴えればいい。異動願いを出せばいい。
そうしないのは、私がどこかで新城さんを拒絶していないからだ。
突然キスしてくるような変な人だけど、私はあなたを嫌いになれない。
だから……あなたが私を好きだという、その理由をはっきりさせてくれたなら。
私も勇気を持って、一歩踏み出せるような気がするのに……。
どうしても私の欲しい答えをくれそうにない新城さんの手を、そっと離す。
何を話していいかわからなくてうつむくと、短く切った髪をふわりとなでられた。
「俺は……たとえ全ての記憶がなくたって、今の一ノ瀬紫苑を可愛いと思うし、好きだと思っているから」
どくんと、心臓が跳ね上がる。
まるで胸の奥をぎゅっとつかまれたようで、鋭いのにどこか甘い痛みを感じた。



