溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



「本当に、教えてほしいか?」


新城さんは逆に質問してくる。

もちろん、と答えかけて、言葉を失った。

彼の瞳に、後悔や寂しさを思わせるような影が漂った気がしたから。

どうしてそんな瞳をするの?


「紫苑、俺はさ……過去にこだわることに意味があるとは思えない」

「え……」

「写真はそのうち出てくるさ。あんまり考え込まない方がいい。たとえ俺とお前が過去に会っていたとしても、それは現在には関係ない」


そんなことない。それじゃ、私の気持ちがすっきりしない。


「お前が忘れていて思い出せない記憶があるとしても、それは誰にでもあること。何も不自然じゃない。忘れたってことは、忘れてしまうような取るに足りない記憶か、忘れた方が良い記憶だったってことだ。今が幸せなら、それでいいじゃないか」


そうだろうか?

たとえば私と新城さんがどこかで会っていたとして、それは私にとってどうでもいい事?あるいは忘れたくてたまらないほど嫌な事?

そんなことはない気がする。

あなたがそんな相手なら、私もこんなにもやもやしない。