じゃあ、と言ってホテルの外に休憩に行こうとする新城さんの腕をつかみ、引き留める。
振り返った新城さんの前髪が揺れた。
「あのとき……初めて握手をしたとき、感じたんです。手のひらを電流が走るような、衝撃を。もしかしてあのとき、私の記憶を見たんじゃないですか?」
「……どうしてそう思う?」
「だって、新城さん、わけがわからないから。私におかしなことばかり、してくるじゃないですか」
プロポーズとかキスとか、公衆の面前で口に出すのは恥ずかしくて、言葉を濁す。
「正直に言うと、見ようとしたわけじゃない。あのとき、お前の記憶の一部分が勝手に俺の中に流れ込んできた」
静かな新城さんの声にハッとする。
見上げると、新城さんも私を見つめていた。
その顔に、ふざけた様子はなかった。
「新城さん……あなたは、私を……出会う前から、知っていたんですか?」
形の良い口をきゅっと結んで、新城さんは黙る。
「では、質問を変えます。実家に、私の赤ん坊の頃から幼児の頃の写真がないんです。新城さんなら、その理由がわかりますか?」
さっき捕えた彼の手を、両手できゅっと握る。
こうすれば、彼は私の記憶が読めるはず。
そう思ったけれど。



