溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



腹が立つのは、あのアホ国分親子だ。

あの事件のあと、彼らは大金を引っ提げて、私のアパートのドアを叩いたのだった。

玄関先で、彼らはこう言った。


『これでも足りなければ、そちらの言い値を払う。だから、本庄の一件に関しては口をつぐんでいてほしい』


すなわち、金をやるから実の両親を殺したことは世間には黙っていてくれ。そういうことだ。

両親を死に追いやったことについては、一言の謝罪もない。

呆れ果てて、一瞬言葉を失った。

こいつら、自分のやったこと、まったく反省していないじゃないか。


『……お金はいりません。私は、賄賂を受け取るという習慣になれてはおりません』


きっぱりと断ってやると、二人は途端に狼狽したような表情を浮かべた。

これしきのことも予想できなかったのか、このアホ親子は。


『代わりに。交換条件といっては何ですが、私が一ノ瀬紫苑の戸籍を取得した事実に関して、知らないふりをしてください』