溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



俺は、カードをにぎりしめたまま、少し泣いた。

涙が枯れてふと気づいたときには、カードはしわくちゃになり、ボールペンで書かれた伝番号は、すこしにじんでしまっていた。

それを見た瞬間、その電話番号を書いているおじさんの姿が、ふっと頭に浮かんだ。

最初は何が起きたのか、わからなかった。

実はそれがモノや人の記憶を読む能力が目覚めた瞬間だったのだけど、混乱していた俺がそうと気づくわけもなかった。

そのあと何日かして、ひかりとの思い出の品……もらった手紙だとか、旅行先で買ってきてくれたキーホルダーなんかを整理しているとき、ふとひかりのことを思った。

そのとき、一生懸命手紙を書いてくれるひかりの顔が脳裏に浮かんだのだった。

俺はそこで初めて、自分はものの記憶を見ているのだと理解した。

そして、何者にも汚されていない幸せそうなひかりの笑顔を思い出し、また少し泣いた。