溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



『ただいま』

『ああ、お帰り』

『お帰り、ひかり』


ひかり……そう、それが私の本当の名前だ。どうして忘れていたんだろう。


『あらコウくん、送ってきてくれたの?ありがとう。ゆっくりしていってね。あとでおやつを持っていくから』


そう言ってママはにこりと笑う。

私は返事をすると、お兄ちゃんの手を引き、らせん階段を上がっていった。

コウくん……もしかして、このお兄ちゃんは。


『……ひかり、おばさんに話を聞いてもらわなくていいの?』


ドアを閉めてすぐに私に聞くお兄ちゃん。

その顔をよく見る。

形の良い眉毛の下の大きな瞳。それを縁どる長いまつ毛。

まだ子供だというのに、ほぼ完成されたようなくっきりとした顔立ちをしている。

ああ、やっぱり。あなたは……。


『うん……最近、ママとパパがおかしいの。ずっと難しい話をしているみたい』

『難しい話?』

『よくわからないけど……私たち、お引越しするかもしれないって、言っていたような』