溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



「そんな! 姉さんに彼氏が……彼氏ができたっていうのか!?」


まるで悲鳴のような声を上げる、気持ち悪い弟。


「彼氏じゃない」


少なくとも、今は。


「くそう……もしや、昨日病院で一緒にいたイケメンか!? やっぱり、一人暮らしなんてさせるんじゃなかった……!」


話、聞いてないし。

葵はその場に座り込み、どんと床を拳で打った。


「葵、紫苑は姉なんだから、いい加減あきらめて彼女作りなさい」


母が冷めた目で葵を見る。

なんだそれ。まるで葵が、私に片思いをしているみたいじゃない。

姉弟でそんなこと、あるわけない。


「でも、でも、姉さんと俺は……」

「葵っ!!」


何かを言いかけた葵を黙らせるように、母が突然大声を出す。

ビックリした私は、一瞬固まってしまった。

母が大声を出すなんてこと、今までほとんどなかったのに。

葵はびくっと背中を震わせ、口をつぐんだ。