溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



出かけたはずのない私が玄関から、しかも焦げたジャージ姿で現れたので、母と葵は卒倒しそうになっていた。

すぐさま出かけていった葵は、大量の紙袋を抱えて帰ってきた。

中身はもちろん、私のための服だ。


「アパートから持ってきてくれれば良かったのに」


袋の中には、自分では選ばないであろうニットワンピースだの、ロングスカートだの、女性らしいアイテムが。

葵はこういうのを着る女が好きなんだろうか。もったいない。こんなの、アパートに帰ったらタンスの肥やしになるだけなのに。


「買った方が早かったんだよ。さあ姉さん、早く着替えて!」


にこやかにワンピースを差し出す葵。


……いらねー……。


とは、焦げたジャージ女の立場ではとても言えない。

黙って受け取り、自室に戻る。それまでの間、ずっと葵は気持ち悪い笑顔で笑っていた。

仕方ない。とりあえずこれを着て、アパートに帰って、服を持ってきて……って、今は自宅から出ない方がいいんだっけ。