溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



ちょっと待って。なんのことを言っているの。

私に、敵がいる?


「三田さん。もしかして、先日私が警視庁の近くの公園で襲われたことを言っているの? それとも、実家に盗聴器をしかけた人のことを言っているの?」


三田さんは口を開きかけ、しかしすぐにぎゅっと結びなおした。

何かを振り切るようにエンジンをかけ、ハンドルを握る。


「三田さ……きゃっ」


車が不意に走り出し、思わずついていた手を離す。

その途端に、三田さんを乗せた車はものすごいスピードを出し、はるか遠くに行ってしまった。


「何なのよ……」


すぐに角を曲がって見えなくなった車を見送る。

三田さんは必死な表情で、嘘を言っているようには見えなかった。

彼はいったい、何を知っているの?


仕方ない。とにかく帰ろうか。

家に向かって歩き出すと、そこではじめて靴を履いていなかったことを思い出した。


「いたた……」


アスファルトがちくちくと、素足の裏側を刺す。