外科の看板を目指して歩きながら、途中で脱力しそうになった。
いったい何を考えているんだ、私は……。
「紫苑?」
後ろから声をかけられ、ハッと振り向く。そこには、王子顔のあの人……そう、新城さんが。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「いえ、違うんです! 決して妄想なんかしていません!」
「はあ?」
決して、こんな風に声をかけてもらう妄想なんて、していなかったんだから。
ぶるると頭を振り、新城さんに向き直る。
彼は昨日とは別のスーツで、シャツのボタンをきっちりとしめ、ネクタイも絞めていた。警護のときと同じ。
「あの、ちょっとだけ頭痛がしまして」
おまけに気を失ってしまったようなので、と言いかけてやめた。
そんなことを言ったら、心配させてしまう。
「へえ。で、もう終わったのか」
「いえ、これから診察で、でも混んでいて、暇なのでうろうろしていたんです」
「そうか。ここの病院、アホみたいに混んでるもんな」
周りを見れば、学校や職場帰りと思われる人々がさっきよりも増えているような気がする。
「あの、新城さんは……」
矢作さんに聞いたことは隠し、あくまで偶然を装う。



