パッと手を離して振り返ると、そこにはつり目をますます吊り上げた、鬼のような顔をした篠田さんが。
そう言えば、休憩が終わったあと、新城さんは篠田さんと約束があったはずで……。
「俺の貴重な時間を無駄にするとはどういう了見だ。お前なぞ撃たれて死んでしまえば良かったものを」
ひどい。そりゃあ、約束を破るのは良くないけど、今回のことは仕方なかったのに。
「敵はどうなりました」
新城さんは篠田さんの毒舌に慣れているようで、特に気にした様子はない。
「俺たちが着いたときには、姿を消していた。近くに仲間の車両が待機していたんだろう。どうして確保しなかった」
「できなかったんですよ。それは、さっき来た刑事に話しましたけど」
篠田さんはちっと舌打ちをして、ポケットから何かを取りだす。
それはチャック付ビニール袋に入った、凶器……じゃない。何の変哲もない食事用のナイフだ。
「証拠品だ。さっさと記憶を調べてくれ」
篠田さんは私には目もくれず、ナイフをビニール袋ごと、新城さんに押し付ける。
もしやこれ、あのパーティー会場で、ウェイターに扮していたテロリストが持っていたナイフ?



