溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】



「──いい加減堂々巡りだな。このやりとりも」


ふっと新城さんが真剣な顔に戻る。胸がどきりと跳ねる。


「最初の一手を間違えたんだよな。焦るあまり、お前に不信感を植え付けた俺の負けか」

「あの……」

「なあ、紫苑。本当のことを話したら、お前は俺を信用してくれるか」


指先に、優しい温かみがそっと触れる。ハッとしてそれを見ると、新城さんが私の手をそっと包んでいた。


「そうしなきゃ、好きになってもらえないのかな」


切なそうに眉を歪めるその表情に、胸の奥をぎゅっとつかまれたような気がした。

私の返事なんて最初から期待していないかのように、新城さんは勝手に続ける。


「俺は、記憶の中のお前とは全く変わってしまったけど、今のお前が好きだ。初めて見るお前の顔の、ひとつひとつが」

「新城さん……」


やっぱり彼は、出会う前から私のことを知っていたんだ。

それはとても重要な事実のはずなのに、今の私の心を占めるのは、私のことを『好きだ』と話す新城さんの声ばかり。