「ごめんなさい、思い出せません」
「ちっ、役立たずが」
篠田さんは忌々しげに吐き捨てる。
ちょっとムッとすると、彼はペンの背でとんとんと机を叩きながら別の質問をしだした。
「ところであんたは、国分外務大臣や国分議員と、マルタイとSP以外の関係があるのか?」
「え?どういうことですか?」
親戚でも友達でもない。関係なんて何もないけど。
篠田さんは眉間にシワを寄せたまま続ける。
「なら、どうしてだろうな」
「はい?」
「国分外務大臣の方から、どうしてもあんたをあのバカ息子の警護から外せと言ってきた」
は……?
警護から、外す?
そういえば、パーティーの席で私がどこの令嬢でもなく、SPだと知ったらすごくお怒りになっていたっけ。
いや、怒りというより、まるで幽霊と対峙したみたいに、恐れているような目で私を見ていたような……。
「それは……あのバカ息子が紫苑ちゃんをすごく気にいって、いやらしい目で見ていたからでしょう。跡取り息子には自分の立場をより良くする政略結婚をしてほしいと思っているから、紫苑ちゃんを遠ざけようとしているのでは?」



