忘れていた空腹が戻ってきておなかが鳴りそうになる。 「いいえ、私も勝手に弾いていただけですので」 「ねぇ、名前なんて言うの?」 彼は入ってすぐの壁にもたれかかりながらそう聞いた。 「花崎莉子です」 彼は小さくつぶやくように私の名前を繰り返すとはっとしたように顔を上げた。 「紘が言ってたのって莉子ちゃんだったんだ」 紘、その名前を聞いて昨日の桜の樹の下での出来事を思い出した。