「沙夜子」
名前を呼ぶ声と、コンコンと軽くドアを叩く音がして振り返ると、五十代後半に見えるスーツ姿の男性がこちらを見ていた。
「高臣さん。いらっしゃい今日は早いのね」
「夕方から接待が入っているから、その前に寄らせてもらったよ。そちらの方は」
「沙那さんとお付き合いをされている、相模さんよ」
にこにこと紹介されて慌てて立ち上がり、「はじめまして相模です」と名乗った。
仕立てのいいダークスーツはオーダーメードだろうか。生地もいいし、体にぴったりと合っていた。普段はもっと鋭い目をしているのだろうが、驚きが顔に出ていて威圧感はなかった。
「沙那の彼氏かい? 初めて連れて来るんじゃないか」
「ふふ。そうなのよ。沙那さん恥ずかしがりやだから今まで紹介されたことがないの。自分で店を持ってからは、マンションを借りて家に居着かなくなっていたから、ちっとも知らなかったわ」



