…。…。…ぉ。みお。みお。
誰か呼んでる。

「んー…。」
「心桜。おはよう。」
目を開けると翠さんが横で笑ってた。
バサッ。
すごい速さで布団から出る。
翠さんびっくりしてる。
そっか。言ってなかったっけ。
「心桜?」
「ぁ、ごめんなさい!」
怒ってるかもしれない。顔が見れない。
「どうした?」
だけど、その声はいつもと同じ優しい声だった。
顔を上げると翠さんは笑顔だった。
何もなかったように。
「翠さん。私ね。人と同じベッドで寝れないの。」
そう。なんでかわからないけど、人と同じベッドに入るのがすごく嫌い。
「そうなのか。ごめんな。」
翠さんが申し訳なさそうな顔で誤ってきた。
「なんで翠さんが謝るの?悪くないんだから謝らなくていいのに」
「でも心桜を怖がらせた。」
翠さん…。
「大丈夫大丈夫。けど、できればベッドは別々にして?」
「ああ。」
「ありがとう。よし、この話は終わりね」
本当に優しいな。もっとずっと早く出会っていたかったな。

「なぁ心桜」
「ん?」
「今日、俺の友達に会ってくれないか?」
真剣な眼差しで私を見つめる。
「友達…。」
「絶対に心桜が嫌がることはしないやつだ。それに俺の親友なんだ。」
翠さんが言うなら本当にそうなのだろう。それに親友にも会ってみたい…。
私の好奇心が何十年かぶりに顔を出した。
「いいよ。何時頃いく?」
「いいのか?無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫だよ?何時頃いく?」
「ありがとう。3時頃に約束してるが…その前に買い物でもしないか?」
「うん。何か欲しいものでもあるの?」
「いや、俺じゃなくて心桜の物なんだけど。」
洋服持ってなかったんだった…。
「そっか!けどお金ないよ…?」
「未成年が金の心配なんてしてんじゃねぇよ。」
「でも…」
「俺が金持ってないと思うか?」
いや、100%お金持ちだよね。
「思わないよ?」
「なんで疑問形なんだ?」
「え、そこ?」
「え?」
「なんでもない…。買ってくれる?」
「任せとけ」
自信満々な顔をしながら私を見てくる。
翠さんといると楽しいな。


・・・・・・・・・・・・・・・


「心桜まだか?」
「もうちょっと待って」
「まだか?」
「もうちょっと」
「まだ終わらないのか?」
「んー」
鏡を真剣に見つめながら一生懸命マスカラを塗る私とソファーでつまらなそうに座っている翠さん。
何回この会話をしたかわからないくらいしてる。
だって女の子は準備に時間がかかるんだよ!
翠さん知らないのかな?
…よし、完成!
立って全身鏡を見る。
「終わったか?」
「ちょっと待って…」
やっぱりこのワンピースよりあのシフォンのトップスとハイウエストスキニーの方がいいよね。
急いで着替える。
あれ?やっぱりあのワンピースのほうがいいかな。
「ねぇ翠さん!」
「なんだ?終わったか?」
「こっちのワンピースの方が可愛い?」
「…」
あれ。
「翠さん?」
「心桜はもともと可愛いんだからどっちでもいいだろ。」
「え…」
「よし。行くか。」
「は?え、ちょっとまだ終わってない」
「タイムオーバー」
そう言いながら私を抱き上げて玄関に向かう翠さん。
「え、バッグ持ってないから!」
「俺が持ってる。」
私を抱えている反対の手にはしっかりと私のバッグが握られている。
準備の良さに呆然としていると、いきなり視界が回った。
玄関だし…。もう無理か。
諦めてパンプスを履く。
そして、翠さんに手を引かれながら外に出る。