佐山妙子(さやま・たえこ)。

今時にしては古い名前を持つ、目の前で笑う彼女。




ごく普通の、ありふれた一般家庭の一人娘で、このクラスで最も力を持っている。

まるでクラスという王国をまとめる、女王様みたいな人だ。

妙子の言うことに、皆従う、そんな暗黙のルールが決まっていた。





「久我さん、その花いらないの?
久我さんに似合うと思ったんだけど…」




枯れた花をもらって喜ぶ奇特な人が、いると思うの?

そう聞きたいのを我慢して、あたしは無言で首を振った。




「いらないの?
折角の私からのプレゼントなのに?」




今度は同じく無言で頷いた。

あたしは妙子に関わらず、誰かに話しかけられても無口を通している。

あたしが教室内で声を発するときは、先生相手だけだ。

後は彼だけ。

でも見たところ、今日彼は休みみたいだわ。





「…フン」




妙子は腕を組みながら、自分がリーダーのグループへ戻って行った。

そしてクラスメイトに聞こえるような大きな声で、あたしの悪口を言い始めた。




地味。

暗い。

無口。

気味悪い。




…ありふれたくだらない悪口にあたしは心の中で溜息をついて、自分の席へ戻って行った。

途中、また足を引っかけられ、あたしは転んで、再びクラスが笑いに包まれた。