初めて会った時から、異父兄(あに)・美弦は、優しかった。
この間は頬を叩かれたりしたけど、普段はあんなことしない。
皆から羨ましいと言われる、理想の兄だった。
だけど、里沙は時々怖くなる。
美弦の持つ、底知れぬ闇に。
母が何故、美弦の父と離婚したのか。
その経緯は、里沙も父も知らない。
母も美弦も、そのことについては一切触れないのだから。
里沙は予想した。
きっと母の元夫で、美弦の父との間に、何かあったと。
父のことを2人は嫌いで、だから一切何も言わないのだと。
父も母も、里沙を大事にしてくれる。
放任主義とは言え、やっぱりこの間のように帰りが遅くなったら心配してくれる。
妙子の家からの帰り道、スマホを見ると、父や母からの着信やメールが大量に届いていた。
だけど、美弦に対しては。
父と美弦の間には、まだ確かなぎこちなさがある。
前にリビングで2人きりになったのを里沙は見たことあるが、全く何も話していなかった。
まるでお互いを、空気のように扱っている部分があるのだ。
母と美弦は、血の繋がった、正真正銘の親子だ。
だけど何故か、母は美弦を嫌っているように見える。
里沙のことは大事にするけど、美弦も大事にしているとはどうしても思えないほど。
話すは話すけど、内容の殆どが事務的な会話だ。
美弦は里沙より成績は良いが、両親が美弦を褒めた姿を見たことがない。
里沙は何度も褒められた経験があるけど。


