久しぶりに話せたことが嬉しくて、それだけ言うのがやっとだった。でも、それからもよく思い出していたんだ。きれいな弧を描く唇の形はそのままだけど、少し大人びたその笑顔を。

 高校では男友達と、クラスの女子では誰が一番かわいいとか、そういう話もした。でも、いつも心の中で比較していたんだ。明梨の方が声が高いな、とか、明梨の方が背が低いな、とか、明梨の方が笑顔がかわいいな、とか……。

 そんなふうにすぐに明梨のことを考えてしまうのは、たんに幼馴染みで身近な女の子だからだと思っていたけれど、それも間違っていた。それに気づいたのは、明梨が俺の兄貴のことを「誠一お兄ちゃん」ではなく「誠一さん」と呼んだときだ。

 たまたま駅で一緒になった俺と兄貴の帰宅途中、家の近くで明梨に会った。

「あ、誠一さん、こんにちは」

 明梨がポッと頬を上気させて、はにかんだ笑みを見せたのだ。明梨のあんな顔、初めて見た。そのとき覚えたドロドロした気持ち。それが兄貴に対する嫉妬だと気づき、同時に明梨への気持ちにも気づいた。

 でも、それは遅すぎた。明梨が見つめているのは俺ではなく兄貴だ。俺の右側を歩きながらも、その視線は俺を素通りして左側の兄貴を見ている。