先日の漆畑を前に自分の腕の中で怯え、小さく震えていた美貴のことがいつまでも脳裏にこびりついていた。あの時、美貴にもっと気を配っていればという自責の念に囚われ、花城は雑念を取り払うために道場へやってきたが、いつの間にか縁側で居眠りをしていたようだ。その時――。

「いたいた、やっぱりここにいたんだね響也」

「誠一……」

 顔をあげると、藤堂がようやく見つけたと言わんばかりに大股で歩いてきた。

「かえでさんが響也のこと探してたよ、館内探してもどこにもいないからここだと思ってさ」

 藤堂の崩した話し方は、仕事中とはまるで別人だ。よくそんな切り替えが器用にできるものだと花城はいつも感心さえしてしまう。

「なぁ、親父はどうして今になってあいつをここへ呼んだんだろうな……」

「なんだよいきなり、さぁね、おじさんの考えてることはたまに理解不能だから、僕にもわからない」

 そう言って花城の横へ腰を下ろすと、藤堂は目の前の大きな八重桜をぼんやりと見つめた。