その唇に魔法をかけて、

「こんな侮辱を受けて……ただで済むと思うなよ若造!」

「専務、もうおやめになってください。どう考えたって分が悪いのは――」

 花城より頭ひとつ分は背の低い漆畑が吠えると、傍で見ていた牧田がため息づいた。

「貴様は黙っていろ! お前みたいな使えない秘書はクビだ! クビクビ!」

 漆畑が怒り狂ってお膳をひっくり返すと酒や皿が畳に転がる。

「まったく、躾のなっていないやつにはお仕置きが必要だな、おい、こいつがどうなってもいいか?」

 ここまでくると、丁寧に接しているのが馬鹿らしく思えてしまう。花城が牧田に目配せすると、牧田は顔色ひとつ変えずに言った。

「はい、どの道たった今私は秘書を解かれてしまったので、この方とは無縁です。お好きになさってください」

「な、なんだと! この薄情者!」

 怒り絶頂の漆畑は開き直る牧田に、顔を真っ赤にして大激怒した。すると、たまりかねた漆畑は、いきなり牧田に掴みかかろうと腕を伸ばしてきた。

「この使えない無能秘書が!」

 しかし漆畑の手が届く前に花城によって阻まれる。身動きできないようにぐっと手首を捩じると、漆畑が悲鳴をあげた。

「いだだだだ!! な、何をする!」

「旅館内での暴力沙汰はご遠慮願おうか」

 捩じっていた手をぱっと放すと、漆畑は情けない声を出しながら手首をさすった。