その唇に魔法をかけて、

「失礼いたします。ご要件をお伺いに参りました総支配人の花城です」

(は、花城さん……!?)

 麩の向こうから確かに聞こえた救世主の声に美貴がはっとなる。

「あぁん? ご要件だと? こっちはなにも頼んじゃいないが?」

「花城さん! 助けて!」

 美貴がすかさず助けを乞うと、たまりかねたようにスパーンと麩が勢いよく開かれた。

「な……っ」

 美貴の着物は僅かに乱れ、その上に呆然として覆いかぶさっている漆畑の姿を見た花城がかっと目を見開いた。

「えーっとだな、これはその……あれだ! 仲居とお座敷遊びのひとつでな……」

 気まずい場面を見られてしまった漆畑は、酔いが醒めてしまったようにさっと美貴から身体を離す。

「あの、今何をしていらっしゃったんでしょうか?」

 こんな失態を犯しても客人であることは忘れない。あくまでも丁寧に接する。柔らかな表情だったが、花城の目は笑っていなかった。

「お座敷遊び……おかしいですね、芸者のご用命はなかったはずなんですが」

「まぁ、仲居も芸者も同じだろう?」

「なんだって?」

 聞き捨てならない漆畑の発言に、花城がついにキレた。

「おっしゃっている意味が分かりかねますが?」

 鋭く睨むと、その背中から轟っと滾った火柱があがる。

「うひっ!」

「こっち来い」

 漆畑が怯んだ隙に、美貴はするっと抜け出して花城にしがみつく。“もう大丈夫だ”というように包み込む腕が頼もしいことこの上ない。