その唇に魔法をかけて、

 遡ること美貴が漆畑の部屋へ訪れる数時間前――。

 花城は先ほど玄関先で会った時の美貴に違和感を覚えながら、総支配人室で山積みの書類にハンコ押しの作業をしていた。その横で藤堂が書類に目を通しながら確認している。

「……おかしい、やっぱりおかしい」

「なにがです?」

 涼しい顔をして言う藤堂に花城は腕を組み、ずっと腑に落ちない胸の内に眉を寄せた。

「あいつは三田様の担当だろ? なのになんで三田様の不調に気づかなかったんだ?」

「それは……」

「あいつは三田様の担当だろ? なのになんで初めに三田様の不調に気づかなかったんだ? まるで初め聞かされたみたいな感じだったぞ」

「え?」

 しんと静まり返り不穏な沈黙が流れる中、総支配人室の電話に内線が入る。

「なんだ?」

『あ、響ちゃん?』

 内線の相手はかえでからだった。

『そこにマネージャーいる? ちょっと聞きたいことがあるんだけど……』

 いつも覇気のある声をしているかえでだったが、どことなく不安げで戸惑っているような口調に花城の胸がざわついた。会話の内容が藤堂にもわかるようにスピーカーボタンを押す。