その唇に魔法をかけて、

(うぅ、すごい手汗……!)

「顔を赤らめて、初々しい反応だなぁ」

「あ、あの……」

 握られている部分からぞわぞわとした悪寒が走る。秘書である牧田をちらっと見ると、彼はいっさいこちらに目もくれず、仕事の書類のようなものに目を通しながら片付けている。

(も、もしかして見て見ぬフリしてる……?)

「ひっ!?」

 美貴がよそ見をしている隙に調子に乗った漆畑が、自分の頬に美貴の手の甲をすり合わせてニマニマ笑っている。

(いやぁぁ~~!)

 ざらっとしたヒゲの感触が手の甲から全身へと巡り、ピキピキと凍りつくように動けなくなってしまった。それを横目で見ていたのか、呆れた顔をしながら牧田がようやく口を開いた。

「専務、悪ふざけも大概にしないと、また高林社長に――」

「まったく口うるさい奴だな、社長は今ここにいないだろ! 酒がまずくなるから部屋から出て行け!」

 まるで子供のように漆畑が駄々をこねると、牧田は深いため息をついてなんのためらいもなく部屋から出て行ってしまった。