その唇に魔法をかけて、

「これから仕事だというのに、しっかりしてください」

「はい、すみません」

 気がつかないうちにこぼれてしまった涙を、差し出されたハンカチでそっと拭った。

「大丈夫、根拠はないですけどきっとなにもかもうまくいきますよ。そう思っておいたほうが気楽になりませんか?」

 意外に楽観的な藤堂に、美貴はにこりと笑って気を取り直した。

「すみません、ありがとうございます。仕事に戻らなきゃ」

 くるりと踵をかえして仕事に向かう美貴の後ろ姿を、藤堂はいつまでも見つめながらやんわりと笑った。

 すると――。

「なにニヤニヤしてるんだ?」

 横から聞こえてきたその声に顔を向けることなく、藤堂がポケットにハンカチをしまいながら言った。

「ちょっと厄介なことになりましたよ、総支配人。彼女の素性が彩乃にバレてしまったようです」

「なんだって?」

 藤堂の知らせに花城が一瞬動揺して眉を寄せる。

「総支配人から諭されては逆効果でしょうから、私から彩乃に他言しないよう言って聞かせておきますから」

「逆効果? なんのことだ」

 藤堂は前から彩乃が花城に特別な感情を抱いていることは気づいていた。知らぬは本人のみ、その鈍感な男に藤堂は深くため息をついた。

「ほんと、響也は鈍いね」

「は? なんだそれ?」

 それだけ言うと、藤堂はムッとしている花城に軽く頭を下げてその場を後にした――。