その唇に魔法をかけて、

 バス停に行く途中、彩乃に案内されて黎明館の裏手に回ると、歴史を感じさせるような木造の小さな道場に着いた。


「こっち、ほら見て」


 手招きされて中を見ると、袴姿の男が弓を引いている。


「花城さん……?」


 雑念を遮断して、的に集中するその凛々しい視線に美貴は言葉を失った。


「響兄ちゃん、かっこいいでしょ?」


「響兄ちゃん?」


「あ、えと……総支配人、ね。もちろん血の繋がりはないんだけど、私のお兄ちゃんみたいなもんなの」


 両足で床を踏みしめ、花城が渾身の力を込めて弓を引くとパンっと言う張り詰めた音が鳴り響く。見事に矢が的に的中すると、どことなく緊張した空気が時ほぐれた。


(すごい……)


 花城はこちらの視線に気付いているのかわからなかったが、無心にもう一度弓を引いた。彼がその射るような眼差しを見た瞬間、美貴の心臓が小さく跳ねた気がした。胸の鼓動が鳴り止まず、思わず目を奪われた。花城が矢を放つと、この距離からでは見えないはずの額の汗が煌めいた気がした。