その唇に魔法をかけて、

「ああ、もう。会議さえなければ空港まで一緒に行ったのに!」

 生憎、政明はこれから外せない会議に出席しなければならず、泣く泣くホテルのエントランスでお見送りとなったのだ。

「花城様、お嬢様、出発のお時間ですよ、道が混むといけませんので、少し早めに出ましょう」

 水野が黒光りしている車の後部座席のドアを開け、恭しく頭を下げながら「どうぞ」と促した。

「名残惜しいか?」

 車に乗ってしまえば、しばらくここへは帰ってこれない。そんな名残惜しさが急にこみ上げてくる。

「いえ。大丈夫です、花城さんと一緒ですから」

 花城の存在を思うと、寂しい気持ちや不安な気持ちをすべて吹き飛ばせる気がした。

 車が走り出し、後ろを振り向くといつまでも手を振っている父の姿が見えた。すると、美貴の手を花城がぎゅっと握った。「俺がいる。大丈夫だ」というように――。