帰りの車中――。

 後部座席に座ってぼーっと流れる景色を何も考えずに眺めていると、だんだん瞼が重たくなってきた。旅行中はまるで子供のように毎日はしゃいで、その開放感を余すことなく満喫することができた。

「卒業旅行はいかがでしたか?」

「えっ? あ、あぁ、うん、楽しかったよ」

 不意に水野から声をかけられて美貴はあくびをかみ殺した。そして眠気覚ましにバッグの中からガムを取り出して口に放り込む。眠気覚ましにバッグの中からガムを取り出して口に放り込んだ。

「すみません、お休みのところでしたか?」

「ううん、大丈夫だよ」

(ここで寝ちゃったらパパに眠たそうな顔してるって言われちゃう)

 美貴が水野に政明のスケジュールを確認すると、ちょうど帰国してくる頃には支配人室に在室しているようだった。いつも仕事で外出などが多い政明だったが、自分が帰国する時間帯にわざわざ予定を合わせてくれたのかもしれないと思うと胸が弾んだ。

 四月から美貴はようやく社会人としての門出を迎える。しかも就職先はグランドシャルムの花形であるレセプショニストとして家業に入る予定になっていた。

 友人からは、何も就職活動をせずに大手に勤められると妬み交じりに羨ましがられた。しかし、どう思われようが、美貴にとってグランドシャルムで仕事をするのは夢だったのだ。