その唇に魔法をかけて、

「当日までって、電話よこしたの昨日だぞ? あいつもたいがい性根が悪いよな……散々迷って悩んで、お前が手に入るなら全てを失ってもいいってそう思ったら、もう行動に出てた」

「もしかして、花城さん寝てないんじゃ……」

 間接照明にうっすらと照らされたその目元は、眠ることもできずに一晩中悩んだ形跡が滲み出ている。それでも花城は心配げな美貴に「大丈夫だ」と笑顔になった。

「だいたい台湾に行ってから忙しくて寝る時間もなかった。連日徹夜なんて珍しくない。親父が台湾に建てた黎明館も初めの頃はまだまだ二流、三流でいつ潰れてもおかしくない状態だった。俺はお前を忘れるためにひたすら仕事に打ち込んで、今ではなんとか雑誌に取りあげられるくらいの規模にまでなった」

「え! すごい……」

 仕事熱心な花城が、異国の地でも変わらず奮闘している姿が目に浮かぶようだった。そんな彼を支えられなかったと思うと悔やまれる。

「前に台湾へ連れて行って欲しいって言っただろ? 一度は拒否しておいて、それでももしかしたらって勝手なこと考えた。忘れるためっていうのは建前だな、本当はお前にみっともない台湾の黎明館を見せたくなくてがむしゃらだったんだ。実はそれが俺の活動源だったなんて、笑えるだろ」

 美貴もひたすら余計なことを考えないように仕事に打ち込んでいた。しかし、本当は美貴も花城がいないからと言って廃れた黎明館にしないよう、一心だった。

 離れていても互いに互いのことを想っていたのだ。