その唇に魔法をかけて、

「あの日、俺がツーリングしようって言った道のカーブを翔さんが曲がりきれなくて……即死だった。それ以来、バイクに乗ろうとするとあの時の恐怖が甦ってきて跨ることすらできなくなった……だからもう二度とバイクには乗らないって決めていたんだけどな」

 あの時の事故の光景が思い出されたのか、その沈痛な面持ちが美貴の胸を締め付けた。頬に触れる花城の指が細かく震え、美貴は咄嗟に包み込むようにぎゅっと握った。

「……美貴」

「花城さんがそう私の名前を呼んでくれる限り、私はここにいます」
花城が息を呑むのと同時に顔を歪ませた。そして自分の胸に押し付けるように美貴を勢いよく抱きしめた。

「バイクを借りた時はお前のことで頭がいっぱいで夢中だった。でも、途中でやっぱりトラウマみたいなものがちらついて……その時さ、気のせいかもしれないけど翔さんの声が聞こえた気がしたんだ“なにビビってんだ、情けねぇな”って」

 その表情は窺えなかったが、きっと肩口の向こうで花城は苦笑いしている。

「だから、その言葉で目が覚めたんだ。俺に迷ってる時間なんかないって……」

 怒涛のような目まぐるしい一日に、すでに身体は鉛のように重くなっていた。そんな身体をこうして花城に抱きしめられていると、この上なく幸せで今にも羽が生えて飛んでいってしまいそうな軽々しい気分になった。